私の話。
私はどこにも行けない。
私はなにもできない。
午前3時42分。
自分の大切な荷物をスーツケースに詰めている。
大好きなバンドのTシャツ、CD、イヤホン、お菓子、本、化粧品、全財産…。
私は朝になったらこの街を出ていく。
もともと生まれ育ったあの街へ。
まず、どうしてこういうことになったのか思い出してみよう。
きっかけは本当に些細なことだった。
いつもの月曜日、いつもの学校、いつもの人間。
なんとなく、みんなより1歩引いて世界を見ていた。
憂鬱な気持ちは相変わらず私を取り巻いて離してはくれない。
かと言って、話してくれる程の余裕もない、そんな私の憂鬱。
(嗚呼、このままどこかへ行ってしまいたいなあ。)
そんな時、ふと話しかけられる。
クラスの人かもわからない、別に仲良くもないそんな人。
(ほんとお前誰だよ。)
「また明日ね!」
明日が必ず来るとも限らないのに。
私が明日この世界に居るとして信じて疑わない。
こんな変哲もない永遠に続く世界を壊してやりたいと思った。
普通じゃ嫌なんだ。
平凡なんかじゃ。
私はもっと何かできるはずなんだ。
変えてやる。変えてやる。
私がお前を壊してやる。
私が世界を壊してやる。
世界が変わらないなら、私が変わってやる。
午前4時35分。
淡々と時間は過ぎて、支度も順調だ。
ふと思う、こんなことしても何も変わりはしないんだろう。
わかってる、わかってるよ。
でも、私だけの世界を、世界を。
上り電車に乗るだけなのに、どうしようもないこの高揚感。
流れる、流れる。人。
止まる、止まる。私の感情。
嗚呼、君に会いに行ってしまおうか。
私には大切な人がいた。
彼は願ってはいないけれど、私は愛していた。
どうしてこうなってしまったのか。
そんなことは今更どうだっていいけれど。
私はただただ彼を愛していた。
もしかしたら、誰でも良かったのかもしれない。
でも、確かに彼は私の中で大切な存在でであることに変わりはない。
それでもいいと思っていた。
それでもよかった。
大事な事は、快感以上を彼に求めてはならない。
感情を抑制すればする程、自分が駄目になる。
尚のこと、毎日を憂鬱にしているのは私なのである。
彼は優しかったし、それで良かった。
愛しているだけで、それで良いんだ。
彼に会いに向かう時の高揚感。
それは今と同じこの高揚感。
私はスリルを求めていたのだろうか。
私は人生に刺激を求めていたのだろうか。
私はみんなと違うことがしたかったのか。
私は変わりたいのか。
私は彼に愛を求めていたのだろうか。
わからない、わからない。
でも、行かなくちゃ。
謎の使命感に背中を押される。
あ、忘れてた、彼氏からの連絡。
最後に大切なリュックを背負う。
部屋を見回して、優越感に浸る。
足音をたてずに、息を潜めて階段を降りる。
(うん、スーツケースが大きいな。)
扉の前で一呼吸した。
終われこんな世界。
こんな社会。
何も変わらなくてもいい。
大切なのは行動してみること。
このまま日が昇って学校に行くなんて。
そのままの形なんて。
はじまる私の世界。
はじまれ私の世界。
イヤホンをする。
クリープハイプが耳に流れ込んでくる。
煩いな。高いな。